夜道の散歩

いつもは降りない駅。いつもは歩かない道。いつもは見ない景色。いつもは気づかない景色。いつもは自転車で10分もかからない所を、今日は30分以上歩いて帰宅した。新しい発見をひとつずつ頭の中で言ってみた。新しい発見は10や20じゃなかった。

まっすぐ伸びる川。両脇には川に沿った道。そして道を照らす電灯。綺麗な夜景だった。いつも見る川は穏やかでさらさら流れているけれど、今日見た川はザーっと力強い音を響かせていた。聞こえるのは川の流れとスズ虫が鳴き声。橋の真ん中で川の方に向かってしばらく景色を眺める。いつもはもっと下流を見ている。けれど、今日はちょっとだけ上流だ。そのまま空を見上げたら赤い星があった。背中をタクシーが通り過ぎたのをきっかけにまた歩き出す。

そこにあったはずの建物が無くなっていた。そこには無かった建物ができていた。前はついていた電灯、今日は切れかかっていた。使ったことのない自動販売機。小銭を取り出すも1円しか入ってなかった。千円札を取り出して「キュイー」っと吸い込ませるも「キュィゥー」っと吐き出されてしまう。むーっと札を裏返してもういちど入れると「ピッ」という音と共にこれから押そうとしているボタンにライトがつく。つり銭切れなのかやたらとジャラジャラ小銭が出る。1円しか入っていなかった財布が膨らんだ。大豆のススメを片手にまた帰路につく。

昔からあった医院。昔と変わらない名前の医院なのに院長の名前が変わっていた。広い家の庭にすべり台があった。もう一度空を眺めるとさっき見た赤い星があった。いつも見るものは真上の木に隠されているのか見当たらなかった。それは月。今日は月を確認していない。だけどあえて見えないなら、見ようとはしなかった。

昼間は誰もいない工事現場。夜なのにすごく明るい。自動車が少なくなった夜に工事をしているようだ。電車の通らなくなった線路。夜中も信号はついていて、赤なんだ。車が通らなくなった道。それでもついている信号。だけど、赤にも青にもならない。黄色が点滅しているだけ。店を閉める人。こんなにも遅くまでやっているんだ。それよりもこんな所にお店あったんだ。小さい頃から知っているお店。まだあった。でも夏休みらしい。飲み終わった大豆のススメを自動販売機の横にあるゴミ箱に捨てる。自動販売機は夜中でも電気がついているのね。夜道の散歩は新しい発見だらけだった。いつもはツカツカ歩くけど、今日はゆーっくり散歩。おかげで3倍以上時間をかけて帰ってしまった。今夜は涼しかった。

さて、この散歩をする事になったきっかけがあります。それは・・・

たまには電車で降りる駅を寝過ごしてみるのも良いものですよ(笑)